「かつて日本といえば、ソニー、トヨタ、ホンダ、キヤノン……。しかし今、AIが世界を変えつつある中で、日本はどこに自らの立ち位置を見いだすのか」。
数日前、元日本留学生の集まりで、米国からベトナムに戻ってきた共通の友人を囲んだ席で、友人が私にそう尋ねた。
食卓は一気ににぎやかになり、各自がそれぞれの考え方や見方、意見を語り始めた。私はすぐには答えなかった。私が言いたい答えは、ChatGPTやGeminiなど、どのAIモデルにも載っていないからだ。話は、私の二人の恩師から始まる。
私が日本で博士研究員として研究していたときの指導教員は、今年78歳になる。多くの人が子や孫とゆっくり過ごす年齢になっても、先生は今もほぼ毎日、規則正しく研究室に足を運んでいる。

先生の研究グループが追っているテーマは、一見するとAIからは遠い。廃棄物からリンを回収し、黄リン(P₄)生産の原料として活用する研究だ。
黄リンは、多くの人にとって耳慣れない材料かもしれない。だが、これが欠ければ、私たちが日々使っている多くのテクノロジー製品は成り立たない。黄リンは、半導体や電子チップ、医薬品、さらには多様な先端材料の製造に欠かせない重要な原料である。一方で、世界的な供給は潤沢ではなく、AI需要を背景に半導体産業が拡大するにつれて、その逼迫は強まっている。
私が考えさせられたのは研究テーマそのものではなく、その背後にある問いだった。日本の科学者は、資源が枯渇してから解決策を探すのではない。危機がまだ起きていない段階から研究を始める。
別の機会に、材料分野の第一人者の教授に「現在、日本の研究者はレアアースの精錬・加工技術についても多く研究しているのですか」と尋ねたことがある。
教授は微笑んだ。
「レアアースの精錬・加工技術は、基本的には確立されています。工場も非常にうまく稼働しています」。
そして、こう付け加えた。
「今、私たちが関心を持っているのは、レアアースを必要としないようにするため、代替となる新しい材料をどう生み出すかです」。
私は腑に落ちた。
多くの場所が資源をより効率よく使う方法を探している一方で、彼らはすでに、その資源に依存しない未来を考え始めていた。
それは研究という枠を超えた、思考のあり方でもある。
その数日後、私は内閣が2026年3月27日に決定した「第7期科学技術・イノベーション基本計画」を読み返した。すると、二人の恩師の話は、もはや個別のエピソードではないと感じられた。
2026~2030年の期間、日本は国費として約60兆円を投じ、官民合計で約180兆円規模の研究開発投資を動員する見通しだ。
計画は、AI、半導体、量子技術、バイオテクノロジーなど多くの戦略分野が、将来の経済を支える重要な原動力になると明確に位置づけている。だが私がより強く印象に残ったのは、優先される技術そのものではなく、その先にある目的だった。
日本は国としての研究力を回復させようとしている。日本を「New Technology Nation(新技術立国)」、すなわち新しい技術を基盤に発展する国へと再構築しようとしている。科学技術を経済成長の中核の原動力に据え、博士人材をさらに育成し、世界から優れた研究者を呼び込み、DeepTechスタートアップの育成を進めようとしている。
言い換えれば、彼らは単に新技術を一つ生み出すために投資しているのではない。新しい技術を継続的に生み出し続ける能力を維持するために投資している。
おそらく、それがあの日の問いへの答えでもある。
日本はAIの競争から距離を置いているわけではない。むしろAIには強い勢いで投資している。
ただし、日本は理解している。AIもやがて、テレビやカメラ、携帯電話と同じように、いずれ「過去の技術」の一部になる。かつてそれらは、日本の象徴でもあった。
国の立ち位置を決めるのは、特定の技術で先頭を走ることではない。次の世代の技術を生み出すだけの力を、常に持ち続けられるかどうかだ。
今日がAIかもしれない。 明日は新材料かもしれない。 明後日はエネルギーかもしれない。 あるいは、今の私たちがまだ名前すら知らない技術かもしれない。
だからこそ、78歳の教授は今も黄リンの研究に打ち込んでいる。
だからこそ、材料の研究者たちは、世界が本当にレアアース不足に直面する前から、レアアースに代わる道を考えている。
ある国が科学技術大国になるのは、常に最先端の技術を持っているからではない。未来の問いに対して、非常に早い段階から備えているからだ。
日本から学ぶべき最も大きな点は、彼らが何の技術を研究しているかではなく、未来がまだ到来していないうちから未来に備える、その姿勢なのかもしれない。
Source VnExpress
